週刊連載の少年マンガ『逢魔の扉』という人気作品を
若手俳優を起用して実写ドラマ化したところ、
地上波で、しかも平日の真夜中の放映だったというに、
予想以上の大ヒットを記録。
人ならぬ魔物が襲い来る系のダークファンタジーで、
それらを調伏するのに立ち上がった術師らの戦いと、
個性的な彼らの友情やつながりといった話運びの切なさに気をもんでのこと、
SNSでは考察スレッドが毎日のように立てられ、
セリフや何やがトレンドにならない週はなく。
そんな反響からワイドショーなどでも取り上げられの、
そもそもの想定視聴者層以外にも広く知られのと、
制作者サイドやスタッフにも思いもよらない熱狂はなかなか冷めやらず。
ドラマ自体のクール数を延長したそのうえ、
スピンオフというものか、番外編新作を劇場版として制作中。
はっきりと公言してはないけれど、原作で展開している事態の前日譚で、
負世界というものがあり、そこからの浸食が及ぶ様々な怪奇現象へ、
術式や咒術、祓術などに真摯に向き合う人々が
対策を講じつつ、混沌に飲まれてゆく…といった流れになっていて。
「そういや、最初の原案では暁少年って普通人だったんだってね。」
少年誌掲載の作品によくあるというか、
世界観とか登場する特殊な人々を読者へ解説する役周り、
ガイド役を兼ねてのこと、
主人公の少年には
当初はあんまり特異な技能やら立ち位置やらは構えられてなかったそうなのだが、
実は壮大な構成のドラマであり、
過酷な展開のお話、全部を披露するとなると、
その最終盤までついてゆける存在であらねばならないとなって。
単発で発表された初回の設定からがらりと変わり、
連載物として仕切り直したお話の中では、
式神なのだか無害な咒獣なのだかがたむろする、
人の立ち入らない“禁足地”に住まわって暮らす赤毛の術師、
槇の中将と呼ばれる青年とともにいる、正体不明な少年という態に拵えを一新。
どうやら異界から預けられた和子らしいというのをにおわせつつ、
様々に飛びぬけた術も扱いながら、それでも末弟というポジションのまま
過酷なストーリーをひたむきに泳ぎ上ってゆく少年で。
純粋で真摯なところが敦の雰囲気に合致し、
オファーがかかっての主役抜擢と相成ったのらしく。
「そもそもスーツアクターの敦にオファーが来たくらいだから、
そういう役どころへ化けるというのも想定内ではあったんだろうがな。」
劇場版の撮影もそろそろ終盤で。
都会の繁華街を舞台にしたのは中盤までで、
終盤の展開は本編へとつながる導入にもなっているため、
異界の荒涼とした砂漠や岩屋が舞台となる。
郊外にある合宿所(今回は助監督さんの知人の別邸)をお借りして、
荒野への転移現象など織り交ぜたシーンを撮ることとなっており。
負の異界へ乗り込む顔ぶれのうち、中心となる青年術師の4人が、
それぞれの特質、術式だったり格闘だったりを生かした擬斗(ぎとう)を組み立てて、
見せ場を構築する運び。
出演する大所帯全員をここへと招くのは、
スケジュールの調整も難しいうえに、多元展開となる流れ。
なので、出来るだけスタジオで納められそうな部分はそちらで収録するということで、
主人公級の顔ぶれの格闘シーンだけをここで集中して撮る予定だとか。
「そういえば、芥川くん、来月末はイギリスの劇場で公演だってね。」
「はい。定期公演となっておりますので。」
演目は毎年変わるが、劇団の公演ということで定期的な開催だそうで、
現地にも固定のファン層を生み出すほどの評判だとか。
太宰に問われ、是と素直にうなずき、
「打ち合わせや稽古も始まっていますが、現地には直前に向かうので
こちらの撮影には支障を出さないでいられますよ。」
柔らかく笑って会釈するところは、ある意味貫禄さえ感じられ、
そのお隣でちょっぴり視線を逸らした誰かさんの様子と対照的なのがまた可笑しい。
「どした敦。」
判っていて訊くのは故意であり、
ある意味で様式美というやつなのかも。
あえて素知らぬふりと声音という、
冷やかすような訳知り顔はしないところが、さすがは俳優というところか。
中也から聞かれた途端、視線がもっと泳いだ末に、
「だって、しばらくは逢えなくなるのが、その…。」
「う……。////////」
訊いた中也とは真逆で、逆に素直にこぼすところが可愛いのであって。
逢えなくなることが不満ですと言われた当人が赤くなり、
あとの二人が微笑ましいねぇと嬉しそうな顔になるところまでがお約束。
相変わらずに仲のいい彼らである。
◇◇
初夏へと移り行く季節につきものなのか、
白い木花が萌え始めの新緑との拮抗をなしていて鮮やかで。
タイサンボクにニセアカシアの白、
藤やつつじは他の色も咲くけれど、
やはり白の映えようは鮮烈なまでにひとしおで。
たいして早朝ということもないが、
それでも空気のいい環境での早起きは格別とあって。
特に示し合わせたわけでもないが、
用意していただいた朝食を済ませると、
広々とした庭に出て来た面々、
散策よりはテンポの早い歩みようで体を動かし始めるのも
ここでのルーティンのようなもの。
まだ劇中の衣装もまとわない、
部屋着の延長のようなトレーニングウェアという恰好であり、
彼らの素性を知らない者にはなんてことのない合宿風景ぽいが、
知っているならならで、
推しが4人も自然体でいる、夢のような光景かもしれぬ。
「…あれ?」
お散歩よりは少々軽やかな歩調。
腹ごなしレベルの歩みを進めていた彼らだったが、
ふと足を止めたのは最年少さんの虎くんで。
彼が宝珠のような双眸を向けていたのは、前に来たときは無かった小径。
「こんなのありましたっけ?」
来訪者が散策できるほど、結構な広さのある庭ではあったが、
それでも公苑ではなしで、
背丈以上に育った茂みに“こっちにも道がありますよ”なんてな、
誘導めいた隙間があったのは覚えがない。
「前に来た時とは季節が違うから、今時の茂みが育っているのでは?」
この時期の趣向みたいなものなのかもと、邸宅には馴染みがありそうな太宰に言われ、
そういうものなのかと納得しかかり、視線を逸らしかけた敦が、
「………っ?」
不意に体を返してその小径の奥へと目がけるように駆け出した。
「え?」
「敦?」
朝食後のひととき、撮影前の準備運動のようなもの、
起き抜けの身なのをほぐす散策程度の歩調だったのが、
何か見つけたものへまっしぐらするような勢いになったのが意外で。
何だなんだとびっくりしつつ、声をかけたのさえ振り切るように足が止まらぬ彼なのへ、
これは尋常ではないと感じた後の3人も後を追う。
「敦? どうした?」
「何か見えたのか?」
下ばえをザクザクと踏みしめる足運びは結構な本気の駆けようで、
しっかりしてはいるが小さめの背中が止まる気配はない。
小道を作り出す左右の茂みも、思えば何の木なのかよく判らない。
そんな不審さえ沸かぬのか、
ただただ駆けている少年の口元が小さく動いた。
「……あにさま。」
to be continued.(26.05.15.〜)
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*現代劇へも何かしらはみ出してまいりましたよ。
敦くんだけ何も思い出せないのはこういう根っこがあったからというの、
ちょっと考えてみたお話、
よろしかったらお付き合いくださいませ。

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